研究の背景

①看護系大学教員の不足
 看護師の質的・量的充実を目指した「看護師等の人材確保の促進に関する法律(1992)」により、この30年間で看護基礎教育の大学化が進みました。現在、看護系大学は274大学、289課程(2020年度)に上ります。看護系大学が急増する一方、教員不足が深刻化することが懸念されています(鈴木ら,2019)。
 私たちのこれまでの検討では、看護系大学の7割を占める私立大学では、入学定員や在学生数が国公立大学に比し有意に多く、教授および助教の配置数は有意に少ないことがわかりました。さらに、北海道・東北や中国・四国といった地方での看護教員数が少ない傾向にありました(Yamada, et al., 2020)。このように設置主体別および地域別にも教員配置の格差が生じており、私立大学や地方ではより深刻な状況と考えられます。

②新任助教が抱える課題
 臨地で就労していた看護職者が教育現場に移行する場合、厚生労働省管轄の教育機関では看護教員養成講座を受講する機会があります。しかし、文部科学省管轄の看護系大学では、新任助教は教育に関する十分な学修機会を持つことがないことや、看護系大学の助教の採用基準において、教育能力の評価は不十分であると指摘されています(遠藤ら,2009)。
 臨地で求められていた役割と大学教員に求められる役割は異なるため、臨地から教育への移行は困難とされ(Grassley et al., 2020)、新任助教は就業上の困難に直面していると考えられます。一方、私たちの先行研究では、助教としての仕事の順調さがキャリア継続に影響していることが示唆されています(石原ら,2020)。
 以上のことから、臨地から教育現場への移行期には多くの困難に直面するものの、この時期に看護教員として順調な滑り出しができれば、その後のキャリア継続につながることが期待できると考えました。

③移行期にある助教に対する支援
 看護教員のキャリア開発支援については、看護系大学教員が携えるべき能力を体系的に示した千葉大学のFDマザーマップや日本看護系大学協議会の若手看護学教員のためのFDガイドライン、看護系学会による若手の研究支援などの取り組みが報告されています。しかしながら、移行期にある助教を支援するプログラムはありません。
 以上より、看護教員が不足している現状にあって、看護教育の質の向上のために、看護教員の育成と定着の促進には、移行期にある新任の助教が教員としてのキャリアを継続することできるような支援プログラムが必要だと考えました。
【文献】
Grassley. J. S. ,et al.,( 2020):No Longer Expert: A Meta-Synthesis Describing the Transition from Clinician to Academic. Journal of Nursing Education,59(7), 366–374.
遠藤良仁,他(2009):看護系大学における助教の採用・昇任の基準.岩手看護学会誌 3(2),15-23.
石原あや,他(2020) :若手看護系大学教員のキャリア径路の可視化-複線径路・等至性モデル(TEM)による分析から-」.第40回日本看護科学学会学術集会.
鈴木由美,他(2019):国内文献にみる看護系大学における教員の課題について.国際医療福祉大学学会誌,24(2),61-72.
R. Yamada.,et al.,(2020):Characteristics of faculty members working at nursing universities in Japan: Supporting the career development of nursing educators at the early career stage. the 23rd EAFONS.

研究目的

 臨地から教育現場への移行期における新任助教の経験を明らかにした上で、移行を支援するためのプログラムを開発することです。

研究の概念枠組み

主な研究プロジェクト

1)新任助教の移行の経験に関する質的研究
 新任助教が臨地から教育現場へ移行した際の経験を質的記述的に明らかにします。

2)新任教員に対する移行支援プログラムの作成
 図に本研究における支援プログラムの概念枠組みを示しました。本支援プログラムは移行理論(Meleis,2010)を理論的な枠組みとし、新任助教に対する移行支援プログラムを作成します。対象者の利便性を高めるために、支援プログラムはオンラインにて提供する計画です。

3)新任助教に対する移行支援プログラムの試行
 新任助教への移行支援プログラムの試案および評価指標の試行から研究上の課題を明らかにし、ブラッシュアップを図ります。

4)新任助教に対する支援プログラムの実施と評価
ブラッシュアップした新任助教への支援プログラムを実施し、その効果を明らかにします。